名盤の音源探求

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名盤の音源探求-No.1:『ワルツ・フォー・デビイ』/ビル・エヴァンス

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名盤音源探求第一弾として「Waltz For Debby」から始めようと思います。ビル・エヴァンス・トリオのこのアルバムは名盤としてあまりにも広く知られており、マスタリングのバージョンの数は、数えきれないぐらいあり、加えて雑誌やサイトですでに様々な情報が提供されているためにここで取り上げるまでもなかったのかもしれません。しかしながら、すべての音楽好きの方には是非聞いていただきたい名盤中の名盤ですので、特に評判の良い盤を抽出して比較視聴してみました。

 

<名盤紹介>

「Walts For Debby」はビルエヴァンス初期の絶頂期のアルバムであると共に、ジャズ名盤の中でも3本の指に入る人気盤として位置づけられている名盤中の名盤です。1961年にニューヨークのヴィレッジ・ヴァンガードで行ったライブを収録したアルバムです。当ライブは伝説的なライブとして知られ、当アルバムと『サンディ・アット・ザ・ビレッジ・バンガード』の2つのアルバムに分割され、リリースされました。ジャズをあまり聴かない、という方には特にジャズの世界を楽しむはじめの一歩として聴いていただきたいと思います。ビルエヴァンスはもともとクラッシック音楽でピアノの腕を磨き、ラフマニノフストラヴィンスキーの作品を好んで弾いていたといわれていますから、かなりのテクニックを習得していたものと思います。演奏を聴くとまるで印象派ピアニストのようななめらかで粒立ちのよいタッチ、上品なフレーズなど、とても聴きやすくわかりやすい音楽が展開されていきます。さらにはベースのスコット・ラファロの凄さを実感できる点も魅力です。ピアノに溶け込むようなしなやかさを持ちつつ、時に強烈な存在感のある厚みのある音を出す懐の深い表現力は、当アルバムでも実感できます。最後に当アルバムは幸運なことに1960年代前半のライブ録音としては非常にクオリティーの高い音質です。とても半世紀以上前の録音とは思えない生々しい音でオーディオを楽しむ、という観点でもとても魅力的なアルバムと言えます。

 

<音源の探求>

前置きが長くなりすぎてしまいましたが、これからが本題となります。当アルバムの最良の音源を探求すべく6種の音源で比較を行うこととしました。なお、他にも多くのクオリティーの高い盤も存在しますが、一方で明らかに定位に問題があるものや正規のオリジナルマスターを用いていない粗悪なものまで多く見受けられますので、必ずレーベルや品番を確認の上、購入することをおすすめします。

①【CD】 VDJ-1536:ビクター
国内最初期のCD版ですが、マニアの間では「アルバムとして編集されたオリジナルマスターを作成する元となるワークパーツを用いた音源=ワークパーツ版」と言われており、廃版となった今でも語り継がれ、中古品も高値で取引されている定番音源です。

<音源評価:★★★☆>
オリジナルアナログマスターの音をできるだけフラットに聞きたい、ということであれば当盤はおすすめです。但し、CD制作のためのマスタリングとしては当時の技術は発展途上であったことは否めず、音圧は低めに設定され、左右の音の広がりは比較音源中最も狭く感じられます。但し、当アルバムでよく指摘されるマスターテープのドロップアウトや音の揺れが②の盤と共に少ない点ではワークパーツのコンディションは良好なものであったことがわかります。音の解像感は多少ぼやけて聞こえると感じますが、情報がが失われているわけではなく、細かい音は確かに記録されています。すなわち解像際立たせるような加工が控えられているのではないかと思われます。最近、一部のマニアで行われるセルフデジタルマスタリングを行う元の音源としても向いていると思います。

②【CD】 CAPJ-009:アナログプロダクション(APO)
上記①と共に、「ワークパーツ版を使用した」とされるマスターを使用したとされる米アナログ・プロダクションのゴールドCDです。こちらも人気の高いマスタリングであり、入手が難しくなってきました。

<音源評価:★★★★>
①と同じアナログマスターを使われているように思われます。①との違いは、音のコントラスト、左右の音の広がりは、他の盤と同様のレベルにあり、音圧も高まり、CDフォーマットに最適化されたマスタリングがなされているものと感じます。音にも厚みはありますが、解像感という意味では①と同様に無理に調整を行っていない、という点で好感が持てます。「音質」だけを評価するならば当盤は最高レベルにあると思います。残念なのは各トラックのカットがタイトである、という点です。極めつけはトラック1の「My Foolish Heart」で、冒頭のピアノ1音がカットによって聞こえず、曲の途中から始まってしまうよう感じてしまいます。この点を除けば素晴らしい盤だけにとても惜しいです。

③【CD】 VICJ-60141:ビクター
JVCの独自の技術によってリマスタリングされた通称XRCD盤と言われているものです。JVCによると「オリジナル・マスターテープの持つ温かさ、音の厚み、空気感、アコースチックで細かなニュアンスを表現する楽器の音色などがLP以上にオリジナル・マスターに忠実に表現されている」とのことで、マニアの間でも評価を受けているものと思います。

<音源評価:★★★★>
②と同質の音がすると感じます。但し、①、②だけが有するワークパーツ音源とは異なる一般的なアナログマスターを用いているようです。テープの音の揺れ、ドロップは①、②、と比べると多くありますが、決して音質が劣っているようには感じません。むしろ②に課題とした曲間の音のカットなど、丁寧に行われており、全く違和感を感じない点にクオリティーの高さを感じます。アルバム全体を安心して聴くことのできる点でおすすめの盤と言えます。

④【SACDUCGO-9014:ユニバーサル
米国コンコード社でオリジナル・アナログ・テープより変換された2010年192kHz/24bitリマスターを基にしたDSDマスターとしたものであるそうです。

<音源評価:★★★★>
オリジナルマスターの音を大きく編集せず、とても聴きやすいしっとりとしたイメージの音です。SACDDSDフォーマットとなりますが、DSD音源の特徴であるより「アナログ的」な音に仕上がっていると思います。ハイレゾであればもっと高い解像感で、ダイナミックレンジも高く、と期待してしまいますが、情報量は十分に感じられこれはこれでとても聴きやすいです。その点で③に共通するところがあります。

⑤【SACD】 CAPJ-9399-SA:アナログプロダクション(APO)
上記②と同じエンジニアによるマスタリングのようですが、使われているアナログマスターは「ワークパーツ版」ではありません。

<音源評価:★★★★☆>
マスタリングのテクノロジーが進化したことによるものか、②と比べて音の輪郭がしっかりしつつ濃厚な音色に
仕上がっています。音が明るめになっていることからピアノの音もクリアに聞こえます。当アルバムをオーディオとして聴くうえでは満足度が高い為☆一つ分、高く評価させていただきました。SACDを使われる方にはおすすめです。

⑥【SACD】ESSO-90173:エソテリック
エソテリックはオリジナルのアナログマスターからではなく、デジタル化されたオリジナルマスターを選定して、エソテリックのハイエンド機器(DAコンバーター)を使ってマスタリング作業を行います。

<音源評価:★★★★☆>
ハイエンドオーディオメーカーだけあってマスタリングの音作りは原音に忠実でありながらもより明るくクリアで解像感高くに聞こえるような調整が行われているように感じます。音圧は最も高く設定されており、コントラストも解像感も高められたマスタリングです。オリジナルマスターテープの音をそのまま忠実に再現する、というよりは「当時の生の音を再現するとこのような音ではなかったのか?」という観点で追及されたマスタリングのように感じます。その点で聴いていて楽しめる盤です。ビルエヴァンスに造詣の深いファンの皆様ですとご意見が分かれるのかもしれませんが。

以上、各音源を探求してみましたが、実際の音を言葉で表現するのはとても難しいと改めて感じました。少しでも皆様のご参考になれば嬉しい限りです。